判例 Law Case
知財高裁 令和6年4月25日判決
(令和3年(ネ)第10086号)
「ランプ及び照明装置」事件
1.事件の概要
本件は、発明の名称を「ランプ及び照明事件」等とする7件の特許権を有する原告らが、被告の製造、販売に係る各製品が各発明の技術的範囲にそれぞれ属するとして、各製品の差止・損害賠償等を請求した事案である。
本事件では、特許権の有効性や先使用権の成否が争点となったが、以下、パラメータ発明(数値限定発明)に関する先使用権が成立すると判断した内容について紹介する。
2.本件特許発明(特許第5658831号)
【請求項1】
光拡散部を有する長尺状の筐体と、
前記筐体の長尺方向に沿って前記筐体内に配置された複数のLEDチップと、を備えたランプであって、
前記複数のLEDチップの各々の光が前記ランプの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅をy(mm)とし、隣り合う前記LEDチップの発光中心間隔をx(mm)とすると、
y≧1.09xの関係を満たす、
ランプ。
3.知財高裁の判断(下線は筆者が追加)
[先使用権の範囲]
・・・先使用権制度の趣旨が、主として特許権者と先使用権者との公平を図ることにあり、特許出願の際(優先権主張日)に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式以外に変更することを一切認めないのは、先使用権者にとって酷であって相当ではなく、先使用権者が自己のものとして支配していた発明の範囲において先使用権を認めることが同条の文理にも沿うと考えられること(前記最高裁判決参照)からすると、実施形式において具現された発明を認定するに当たっては、当該発明の具体的な技術内容だけでなく、当該発明に至った具体的な経過等を踏まえつつ、当該技術分野における本件特許発明の特許出願当時(優先権主張日当時)の技術水準や技術常識を踏まえて、判断するのが相当である。
[被控訴人403W製品に具現されている発明]
(ア)証拠(乙388)によると、被控訴人403W製品は、試料No.1とNo.2について、LED99個のうち左から18~35番目、及び、38~50番目までのLED31個についてy/x値を計測したところ、試料No.1については、最小値1.272、最大値1.363、平均値3σが1.271、1.370であり、試料No.2については、・・・であったことが認められる。また、被控訴人403W製品全24本について、左から25番目と50番目のLED2個についてy/x値を計測したところ、・・・であったことが認められる。
ここで、工業製品にあっては、同一生産工程で生産されても、その品質はさまざまな原因によってばらつきが存在するものであり、照明器具においても同様のことがいえると解されるところ、上記のとおり、被控訴人403W製品においても、それぞれ数値範囲にばらつきが生じているものと理解できる。また、品質管理の手法としては、製品の検査結果を要求される品質標準と比較して、この差(製造誤差)を標準偏差の3倍(3σ)の範囲に収めることが一般的に採用される手法の一つであると理解できる(乙388、弁論の全趣旨)。これらを踏まえると、・・・被控訴人403W製品のy/x値は、おおむね1.27~1.40程度であったと認めることができる。
(イ)また、先使用権に係る実施品である403W製品は、本件優先日1前において公然実施されていた402W製品とシリーズ品を構成するから、被控訴人402W製品と極めて関連性が高い公然実施品である。・・・402W製品のy/x値は1.7程度であり、その余の402W製品のy/x値は更に大きいことが認められる。・・・以上のことを踏まえると、403W製品に具現化された発明であるy/x値が1.4を超える部分から1.7又は1.7を超える範囲は、被控訴人においてx値を適宜調整することで実現していた範囲であって自己のものとして支配していた範囲であるといえる。
(ウ)さらに、本件各発明1の課題であるLED照明の粒々感を抑えることは、LED照明の当業者において本件優先権主張日前から知られた課題であり、当業者はこのような課題につき、本件パラメータを用いずに、試行錯誤を通じて、粒々感のない照明器具を製造していたものといえる。そのような技術状況からすると、「物」の発明の特定事項として数式が用いられている場合には、出願(優先権主張日)前において実施していた製品又は実施の準備をしている製品が、後に出願され権利化された発明の特定する数式によって画定される技術的範囲内に包含されることがあり得るところであり、被控訴人が本件パラメータを認識していなかったことをもって、先使用権の成立を否定すべきではない。
そこで、本件優先日1当時の技術水準や技術常識等についてみると、・・・輝度均斉度が85%程度を上回ることで粒々感に対処できることが周知技術であったこと、y/x値が1.208~1.278程度の製品が、本件優先日1前に公然実施されていたこと、403W製品は、402W製品と比較して、LEDの個数を減らす設計によるものであって、本件各発明1と同様の課題である粒々感を抑えることができる範囲内でx値を402W製品より大きくし、y/x値を輝度均斉度が85%程度となる1.1程度まで小さくすることは、402W製品を起点とした403W製品の設計に至る間の延長線上にあるといえる。以上のことからすると、y/x値が1.27~1.1を満たす製品を設計することは、403W製品によって具現された発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式というべきである。
(エ)まとめ
以上のとおり、被控訴人403W製品に具現されたy/x値との同一の範囲は、1.27~1.40と認定でき、また、被控訴人403W発明に具現された発明と同一性を失わない範囲は、1.1~1.7又は1.7を超える範囲と認定できるから、1.1~1.7又は1.7を超える範囲は、先使用権者である被控訴人が自己のものとして支配していた範囲と認められる。
4.コメント
パラメータ発明(数値限定発明)の先使用権に関する裁判例として、「ピタバスタチン」事件 知財高裁平成30年4月4日判決(平成29年(ネ)第10090号)では、傍論とされているものの、仮にサンプル薬が発明の数値範囲内にあったとしても、数値範囲内に収めるという技術的思想はなく、サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるということはできない、と判示されていた。
この判決を根拠として、「パラメータが技術的意義を有するものと先使用者が認識している必要がある」という考え方もあったが、本件判決では、先使用権の成立に関して「パラメータの技術的意義を認識している」という先使用者の主観までは要求されておらず、当該発明に至った具体的な経過等を踏まえつつ、特許出願当時の技術水準や技術常識を踏まえて「先使用権者が自己のものとして支配していた範囲」が認定されていることから、今後の参考になると考えられる。
詳細は以下の判決文をご参照ください(特に131~136ページをご参照ください)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/015/093015_hanrei.pdf
(担当弁理士:山田 淳一)