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判例 Law Case

知財高裁 令和4年6月22日判決
(令和3年(行ケ)第10111号)
「レーザ加工装置」事件

1.事件の概要
除くクレームを利用した訂正によって引用発明における必須の構成を除き、それにより当該引用発明からの動機付けに阻害事由があるとして、進歩性が認められた。

2.本件特許発明(特許第3935188号)
【請求項1】(下線部が訂正箇所)
ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、前記加工対象物が載置される載置台と、パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる集光用レンズと、隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、…(中略)…前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部と、を備え、前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウエハであることを特徴とするレーザ加工装置。

3.知財高裁の判断
(1)新規事項追加の有無について
「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていない」との記載を追加する訂正事項は、引用発明における必須の構成(切断予定ラインに沿った溝)を除くものであり、本件明細書には明記されていないものであったが、知財高裁は、新たな技術的事項が追加されることはなく、訂正要件を満たすと判断した。
(判断理由の要点)
・訂正前の請求項1に係る発明から、概念的に包含されていた「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されているシリコンウェハ」ないし溝必須装置を除くにすぎない。
・本件の図面のいずれにおいても、溝は形成されていないことが看取される。本件発明において「溝」が存在することが前提となっているのであれば、「切断予定ライン」を記載しながら「溝」をあえて記載しないことは不自然というほかない。また、本件明細書の記載に鑑みて、本件のレーザ加工装置は、切断予定部分の溝の有無に依存せずに、改質領域を起点として切断できる。

(2)進歩性について
知財高裁は、上記訂正を認めた上で、引用発明(甲11⽂献)に接した当業者が、溝部を捨象することは想定し得ず、加⼯対象物として、切断予定ライン(ブレイクライン)に沿った溝が形成されていない基板を採⽤する改変について動機付けが存在しないのみならず、このような改変にむしろ阻害事由があるとし、進歩性有りと判断した。

4.実務に関するコメント
・現行の審査基準の記載によれば、進歩性欠如を解消するために除くクレームを利用することは推奨できないが、本裁判例によれば、除くクレームを利用した補正や訂正によって引用発明における必須の構成を除き、それにより当該引用発明からの動機付けに阻害事由があることを主張するという対応も取り得ることが分かる。
・本裁判例では、除くクレームとする訂正の根拠として、除こうとする構成が本願の図面に示されていないことが指摘されており、除くクレームにより除く範囲は、新たな技術的事項を導入しないものであれば、柔軟に認められると考えられる。但し、明確性違反とされないように、除く範囲が明確であることや、除いて残った発明の範囲が明確であることに注意する必要がある。
・除くクレームとする補正は、国ごとに取り扱いが異なるため、日本以外の国では、日本と同じ内容で権利化できない可能性がある。

詳細は以下の判決文をご参照ください(特に41~48ページをご参照ください)
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/261/091261_hanrei.pdf

(担当弁理士:重平 和信)

上記情報は、法的助言を目的するものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、弁理士の助言を求めて頂く必要があります。また、上記情報中の見解は執筆担当者の個人的見解であり、当事務所の見解ではありません。