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判例 Law Case

知財高裁 令和5年5月26日判決
(令和4年(ネ)10046号)
「コメント配信システム」事件

1.事件の概要
ネットワーク関連発明においては、従前より、複数主体、属地主義という2つの大きな問題があった。本件は、これらの問題のうち、属地主義に関する。従前の裁判例では、属地主義の原則(各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものである。BBS事件、最高裁平成7年(オ)第1988号)が厳格に解釈され、一部の行為が海外で行われている場合には、特許発明の実施には該当しないとの判断がなされてきた。
一方、本事件では、ネットワーク型システム発明の「生産」において、一部の行為が海外で行われている場合であっても、一定の場合には特許発明の実施に該当することが認められた。

2.本件特許発明(特許第6526304号)
【請求項1】
1A サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
1B 前記サーバは、
前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
1C 前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
1D 前記コメント情報は、
前記第1コメント及び前記第2コメントと、
前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
1E 前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
1F 前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
1G 重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
1H 前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、
前記動画と、
前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、
が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、
1I コメント配信システム。
(補足)本件特許発明では、ユーザーが動画上にコメントを付与できるサービスにおいて、動画上に表示される2つのコメントが重なる場合にこれらコメントの表示位置を調整し、2つのコメントが重ならないように表示する点に特徴がある。

3.被告のシステムの概要
被告が生産するシステムは、本件発明1の構成要件1A~1Iを充足し、本件発明1の技術的範囲に属するものの、サーバがアメリカに設置されている。

4.知財高裁の判断(下線は筆者が追加)
(1)ネットワーク型システム発明の生産について
本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(以下「ネットワーク型システム」という。)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能を有するようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解される。
(2)ネットワーク型システム発明の生産に該当するための基準について
ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。
当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。
ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。

(3)判示した基準の被告行為へのあてはめについて
具体的態様は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観念することができる。
被告システム1は、米国に存在する被告FC2のサーバと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明1の主要な機能である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表示されるようにするために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能と構成要件1Gの表示位置制御部の機能を果たしている。
被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るものである
と判断し、被告の行為が被告システムの「生産」に該当すると判断した。

5.実務に関するコメント
・令和4年に出た判決(https://wiseplusip.com/topics/338/)に続いて、本事件においても、一部の行為が海外で行われている場合であっても、一定の場合には特許発明の実施に該当することが認められた。判決では、「当該行為の具体的態様、・・・等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、・・・」とされている(下線は筆者が追加)ことから、判決で示された具体的態様等以外の事情も考慮される余地がある点には注意が必要である。この点は、裁判例の蓄積が待たれる。
・令和4年に出た判決はプログラムの提供等に関する判決であり、本判決は、ネットワーク型システム発明の生産に関する判決である。これらの判決が及ぶ射程は定かではないものの、上記2つの事件の判決理由を参酌すると、一部の装置を国外に設置すること等によって容易に特許権侵害の責任を免れるような他の形態についても、上記2つの事件と同様に、一定の場合には特許発明の実施に該当することが認められる余地があると解する。しかしながら、その具体的な要件は不明であり、裁判例の蓄積が待たれる。

詳細は以下の判決文をご参照ください(特に71~76ページをご参照ください)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/146/092146_hanrei.pdf

(担当弁理士:神童 利勝)

上記情報は、法的助言を目的するものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、弁理士の助言を求めて頂く必要があります。また、上記情報中の見解は執筆担当者の個人的見解であり、当事務所の見解ではありません。